※本記事は英語でもご覧頂けます:Direct Sellers Turn to Digitalisation to Survive the Pandemic
他の小売チャネルの例に漏れず、訪問販売業界の売上も新型コロナウイルス(COVID-19)危機の影響をまともに受けており、訪問販売企業は早急な戦略方針の転換を余儀なくされています。パンデミックは、訪問販売業界が既に様々な問題に直面している最中に襲来しました。小売業界において容赦ないデジタル化が進む近年、訪問販売企業は2つの課題に直面しています。いかに消費者にとって魅力的かつ便利な買い物体験を形成するか、そして訪問販売が特別な小売チャネルであり続けるべく、いかにして販売員の役割の重要性を保つことができるか、です。これは、COVID-19の状況下においても変わりません。
こうした中、主要な訪問販売企業は販売員の仕事を補足するべく、様々なデジタル戦略を打ち出しています。デジタルなサービスを追加することで、販売員のネットワークの重要性を保ちつつも、より顧客中心の買物体験の提供が可能になるといえます。
しかし、デジタル化は、訪問販売員の仕事への取り組みやモチベーションを保つという意味では、諸刃の剣にもなり得ます。販売の仕事は時代遅れだと思いがちな若者層を販売員の仕事に惹きつけることが出来る一方で、他のギグエコノミー企業と人材の取り合いが生じています。
ソーシャルディスタンスがデジタル戦略を加速させる
「対面」という要素によって他の小売チャネルとは一線を画す訪問販売ですが、販売員が会社の同僚や学校の友人を顧客に持つことが一般的であるため、オフィスの一時閉鎖や学校の休校によってそれら顧客と直接会う機会が減り、パンデミックの影響をまともに受けています。ソーシャルディスタンス対策が講じられたことから、ミーティングや実演もしづらくなりました。その結果、ライブストリーミングといったEコマースで用いられるデジタルな方法が取られるようになり、中国のAmway(アムウェイ)などで効果的に活用されているという報告もあります。
また、訪販企業は販売員に対し、SNSやメッセージアプリを通じて顧客との関係を強化し、スムーズに販売および再注文に繋げるよう促しています。Yanbal(ヤンバル)はソーシャルディスタンス対策への対応として、ペルーでYanbal Deliveryを立ち上げました。販売員は、顧客からの注文をWhatsApp(ワッツアップ)といったモバイルアプリから受け、顧客は販売員と対面で接すること無く注文した商品を受け取ります。訪販企業によると、オンラインで注文をし始める顧客が増えており、Eコマースが存在感を高めています。例えば、ブラジルのBoticario (ボチカリオ)グループによると、同グループのオンラインチャネルに登録した顧客の数が30%増加しました。
また、未だかつてない衛生危機の最中、訪販企業は消費者の間で生まれた「新たな」差し迫ったニーズに対応した商品を開発しています。例えば、O Boticario (オ・ボチカリオ)やAvon(エイボン)、Natura(ナチュラ)といった企業は手指消毒剤やマスクといった、COVID-19の感染防止用製品の生産に集中しています。自社の製品やサービスを消費者の新しいニーズに合わせつつ、EコマースツールやSNSの導入が売上を伸ばす鍵となります。同時に、デジタルプラットフォームや人材開発プログラムを通して、販売員を中心に考えることが、献身的な人材を確保するうえで益々重要になります。
デジタル化と販売員の技能開発が回復を速める
対面での販売が特に重要なラテンアメリカおよび北米市場では、より速く訪問販売業界が回復すると考えられており、ブラジルとメキシコは2024年までの絶対成長率が世界で最も高い国々となることが予測されています。世界最大の訪問販売市場は引き続き米国で、2023年には、世界市場全体のおおよそ20%を占めるものと見られています。
地域ごとの訪問販売業界の成長率(2020年~2023年予測)
Source: Euromonitor International. Note: Data is forecast.
今後はEコマース、SNSやメッセージアプリを使ったカタログの配布といったデジタル化が消費者と販売員の関係を形成し、一方で訪販企業は、印刷会社といった従来のバリューチェーンとの関係を再考する必要があります。
COVID-19が引き起こした景気後退によって、殆どの国において失業率が上昇し、働き口を求める失業労働者が増えることから、訪販企業にとっては市場に人材が増えることが予想されます。しかし、それらの人材はUber(ウーバー)やラストマイル配達アプリといった他のギグエコノミー企業と取り合いになる可能性があります。また、訪問販売員の男女比も均等に近づき、従来の「販売員は基本的には女性の仕事である」という考えは過去のものになりつつあります。これらのことから、販売員の専門能力開発に重きを置いた戦略の推進が、パンデミック後の世界において販売員を惹きつけ、引き留めるための鍵となるでしょう。
2020年は、世界的な景気後退によって人々の収入が国を問わず低下することが予想される中、デジタル化は人々の衝動買いを促すための鍵となり、顧客と販売員の関係もさらに密接になるでしょう。同時に、デジタル化は訪販企業と従来のバリューチェーンの関係に、恒久的な変化をもたらすものと見られています。