※本記事は英語でもご覧頂けます:E-commerce Presents Opportunities for Southeast Asian Coffee Market
東南アジアは、世界の中でコーヒー市場が最も急速に成長している地域のひとつである。ユーロモニターによると、東南アジア地域内の主要6か国(ASEAN 6)であるインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムにおけるコーヒーの小売売上高は、2019年には65億米ドルに達し、2014年から2019年にかけて、6%の年平均成長率を記録した。なお、同期間の世界のコーヒー市場の年平均成長率は5%であった。2019年、東南アジア地域全体でのコーヒー消費量は、小売とフードサービスチャネルを合わせ、合計120万トンであったと推計されている。
2020年、東南アジア各国は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を抑えるため、様々なソーシャルディスタンス措置やロックダウン対策を実施した。必然的に(国によって程度の差はあるものの)、東南アジア地域の経済成長にも影響がもたらされた。ロックダウンはフードサービス産業に影響を与え、その結果、消費者の購買行動や製品の流通に変化が生じた。2020年、フードサービスチャネルにおけるコーヒーの売上は激減した一方、コーヒーの消費機会が自宅にシフトしたことを受け、小売チャネルでの売上は成長を続けた。特にシンガポール、タイ、ベトナムでは前年の2019年に比べ、より高い小売売上成長率を記録した。
ASEAN 6におけるコーヒーの小売売上高 2014~2020年
Source: Euromonitor International. Note: Includes sales from Indonesia, Malaysia, the Philippines, Singapore, Thailand, and Vietnam only
フードサービスでは急速に落ち込む一方、小売チャネルでは底堅さを維持
ソーシャルディスタンスの措置や店舗の一時的な営業停止により人々が外出先や店内で食事をする機会が減ったことは、フードサービス業界の売上に大きな打撃をもたらした。Grab(グラブ)、Foodpanda(フードパンダ)、GoFood(ゴーフード)など、フードデリバリーサービスの選択肢が増えたことで、影響は多少緩和されたが、飲食店内での売上減少を補うまでには至らなかった。フードサービスチャネルにおけるコーヒーの売上もマイナス影響を受けている。ユーロモニターによると、2020年の東南アジア地域全体におけるフードサービスチャネルでのコーヒー販売量は、2019年に比べて20%減少した。
一方で、同地域においてコーヒー総販売量の80%以上を占める小売チャネルでのコーヒーの売上は比較的堅調であり、ユーロモニターによると2020年には3%の成長を記録した。フードサービス店舗の営業が制限されていることに加え、在宅勤務を導入した企業が増加したことにより、外食時や出先における消費から自宅での消費へのシフトがみられた。また、2020年に発生した「ダルゴナコーヒー」のトレンドも、自宅でのコーヒー消費の増加を後押しした。ダルゴナコーヒーとは、コーヒーをホイップし、泡状にして飲むという新しいコーヒー飲料の形であるが、多くの人々がその食感や見た目に惹かれ、自宅での空き時間に真似して自ら作り飲むようになった。また、タイでは、人々が在宅勤務になったことで、自宅でコーヒーを淹れる時間ができたことから、コーヒーキットがブームになった。シンガポールでは、リモートで仕事や勉強をする人々が、自宅でも洗練された味を求めるようになったことから、2020年にはコーヒーポッドカテゴリーの小売売上高が大きく伸長した。
手頃な価格も、小売チャネルにおけるコーヒーの売上が比較的好調である要因のひとつだ。東南アジア地域の小売チャネルにおけるコーヒーの売上の中でも、主流なのは安価で広く入手できるインスタントコーヒーのミックスタイプである。可処分所得の減少に伴い、多くの消費者がインスタントコーヒーミックスのような安価な商品にダウントレードしている。
Eコマースが示す潜在的な市場の成長性
2020年の市場動向は、Eコマースの重要性を抜きにして語ることはできないだろう。Eコマースは2014年から2019年にかけて、東南アジア地域においても全体的に力強く成長してきたものの、食料雑貨、特に飲食品に対するE コマースの使用率は依然としてかなり低いものであった。消費者の多くは、実店舗でのグロッサリーショッピングの方が便利だと感じ、また、比較的高額な配送料や、無料配送のための最低注文金額が高いことも、一部の消費者がEコマースを使用しての食料雑貨の購入を躊躇する理由であった。
しかし、COVID-19の発生により、安全への懸念から、多くの消費者が食料雑貨のオンラインショッピングを受け入れるようになった。2020年には、ASEAN 6のEコマース市場は全体で53%成長し、その中でも飲食品のEコマース売上は実に96%成長したと推計されている。同地域の主要なコーヒー企業は、既にEコマース・プラットフォーム上での存在感を確立していたが、多くの中・小規模のコーヒー企業も、実店舗での売上減少を受け、オンラインに参入するようになった。例えば、インドネシアでは、大規模なソーシャルディスタンス政策の実施によって実店舗へ行く消費者の数が減少したことを受け、国内の大手オンラインマーケットプレイスであるTokopedia(トコペディア)が地元のコーヒーブランドや個人経営のカフェをサポートすべく、#SatuDalamKopi(#1杯のコーヒー)というキャンペーンを実施し、オンラインでのコーヒーの販売を促した。同国ではまた、グラブ&ゴー形式のコーヒー店や個人経営のカフェが、500mlや1ℓのボトルに入ったコーヒーをEコマースで販売するようになった。数回にわたって飲むことを想定し、通常よりも大きなサイズの容器で販売することで、コーヒー1杯を購入する場合に比べてお得な価格設定になっている。
今後、フードサービスチャネルにおけるコーヒーの売上は、2021年には改善に向かうが、長引くソーシャルディスタンス措置や可処分所得の減少といった理由から回復はゆっくりと続き、今後5年間をかけて2019年の水準に戻るものとみられている。また、2020年に加速したフードデリバリーの導入も、引き続き拡大すると予想される。一方、小売チャネルにおけるコーヒーの売上は今後も安定した成長が見込まれ、中でもEコマースは、2025年までの間に最も速い成長を遂げる流通チャネルとなるだろう。多くの企業がEコマースに参入することで、より多くの製品の選択肢をもたらすことになるなど、消費者はオンラインでグロッサリーショッピングする利便性に慣れていくだろう。
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(翻訳:横山雅子)