本記事の内容は、Beauty Packaging Magazineに掲載されたものです。
※本記事は英語でもご覧頂けます:Sustainability to Remain Key in the Agenda for Beauty Players
新型コロナウイルス(COVID-19)の発生前、サステナビリティはビューティー製品のパッケージングにとって、重点的に力を入れる分野であるとともに、イノベーションが生まれる分野でした。途上国及び新興国市場の消費者は企業に対し、使用済み容器の再利用だけでなく、再生可能な素材の利用や容器の循環利用のためのインフラ整備を求めていました。
「COVID-19パンデミックがプラスチック容器の需要増加にもたらす変化とは?」
Source: Euromonitor International’s Voice of the Industry: Coronavirus Survey, April 2020, July 2020
感染爆発が起こると二の次となったサステナビリティ
しかし、パンデミックが発生したことで、ビューティー企業は衛生や安全に重きを置きだすなど、サステナビリティへの取り組みに短・中期的な変化が生じています。感染爆発が発生すると、使い捨て容器や包装容器用シール、シュリンク包装の使用に対する人々の意識も低下していきました。ユーロモニターが2020年4月と7月に実施した「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:新型コロナウイルス」サーベイ調査結果を比較すると、「プラスチック容器の需要増加は中期的な変化である」と回答したビューティー・パーソナルケア業界関係者が7月に増えていることがわかります。しかし、サステナブルなパッケージングはビューティー業界において根強く長期的に続くであろうトレンドです。サステナビリティは、「ビューティー製品が環境へもたらす影響は、機能性や金額、メリット等の製品に関する特徴と同等に重要な要素である」とする「コンシャスな美」というコンセプトに連なる活動の一部であると考えられています。
ビューティー製品の中でも、サステナビリティへの取り組みが最も早く見られたのはスキンケア分野でした。スキンケアは健康やセルフケア、お肌の健康といった言葉との結びつきが強く、現在のCOVID-19状況下においても、液体石鹸や手指消毒剤などを含むバス・シャワー製品カテゴリー以外では最も回復力が高い製品カテゴリーです。ブランドが様々な価格帯の製品を用意していることやEコマースでの売上が伸びているもあり、ユーロモニターは今後のスキンケア世界市場の見通しは明るいと考えています。
ユーロモニターによる3つのCOVID-19悲観経済シナリオを見ると、スキンケア世界市場は、最も「悲観的でない」シナリオ1の中では、2019年から2024年の間に3.3%の成長が予測されています。ビューティー関連の企業は、スキンケア製品利用者の人口動態や求める製品特徴を分析することで、消費者がスキンケア製品にどういったサステナブルな特性を求めているのか、サステナビリティに関するニーズは地域によって異なるのかを、より効果的に考えることができるようになり、パンデミック状況下でも高い回復力を示したスキンケア製品市場における競争力の向上にもつながります。
サステナブルなパッケージングをより好むのは、スキンケア製品ヘビーユーザー層と若い世代
「スキンケア製品のパッケージタイプで望ましいのは?」
消費者グループごとの回答率 世界 2020年
Source: Euromonitor International Beauty Survey, 2020. Extensive skin care users use 8-14 skin care products per week; moderate skin care users use 4-7 skin care products per week; minimalist skin care users use 0-3 skin care products per week.
ユーロモニターが2020年に実施したビューティーサーベイ調査によると、サステナブルな要素をスキンケア製品パッケージに求める世界の消費者が最も求めているのが「再利用可能な(recyclable)容器」で、その後に「リサイクル(recycled)容器」、「詰め替え可能な(refillable)ボトル」と続きます。リサイクルのコンセプトは長くにわたってよく知られてきたため、詰め替え可能ボトルよりも人気があるという調査結果は予想されていました。また、Z世代やミレニアル世代といった若い世代の方が、サステナブルなパッケージに対してより高い意識を示しており、「今日の若者消費者層は、自分の価値観に合ったブランドを好んで選ぶ」という分析と同調する結果が出ています。しかし、スキンケア製品のヘビーユーザー層(Extensive skin care user)が、他のどの消費者セグメントよりもサステナブルなパッケージを強く望んでいるということは、重要な発見であったといえるでしょう。スキンケア製品メーカーは、ヘビーユーザー層を対象とした製品のパッケージングについて、サステナビリティの要素を重視する必要があるといえます。
また、Terracycle(テラサイクル)の容器回収・再利用事業であるLoopが今や全米に広がり、2021年にはカナダ、オーストラリアそして日本でも始まる中、Loopや他のサステナブルに関する取り組みの機運を高めるためにも、「詰め替え可能なボトル」の使用に賛同する消費者を増やすことが重要な鍵となります。
サステナブル・パッケージの訴求の中でも主流は「リサイクル」タイプ
ユーロモニターは世界40ヵ国、合計1,500のEコマースサイトで販売される11産業の製品情報をSKUレベルで抽出し、その中で使用されている150の製品訴求を調査しました。Passport内の「Product Claims and Positioning」データベースは、各国市場における製品訴求のトレンドや、特定のカテゴリーにおける製品訴求のシェア、そしてどのようなブランドがダイエットやエシカル、環境といった製品ラベルでポジショニングを取っているのかを見ることができます。
サステナブル・パッケージの訴求タイプ | スキンケア製品SKU数(40ヵ国) |
リサイクル(Recycled) | 2,513 |
再利用可能(Can be recycled) | 294 |
生分解性(Biodegradable packaging) | 188 |
大部分の消費者が再利用している(Widely recycled) | 113 |
再利用PET(Recycled PET) | 109 |
堆肥にできる(Compostable) | 40 |
テラサイクル社製(Terracycle) | 13 |
Source: Euromonitor International Product Claims and Positioning, 2019
2019年、世界のスキンケア製品市場をみると、「リサイクル」、「再利用可能」、「生分解性」、「Widely Recycled(大部分の消費者が再利用している)」、そして「再利用PET」がサステナブル・パッケージの訴求で最も多い5つのタイプでした。中でも「リサイクル」タイプは2番目に多い「再利用可能」タイプの8.5倍の数に上り、前述の2020年ビューティーサーベイ調査の調査結果が示した、「消費者が最も求めているのはリサイクルのコンセプトである」ことを裏付けています。また、リサイクルは資源を必要とし、リサイクルパッケージを生産するためには労働コストがかかることなどから、廃棄物の削減に比べて効果的ではないという考え方もありますが、サステナビリティはゼロサムゲームではありません。上記のサステナブルアプローチの中で生まれる全てのイノベーション(例:植物など再生可能な資源で作られた容器や生分解性容器)が、正しい方向に向かっているといえます。
世界のスキンケア製品パッケージの主要なサステナブル訴求タイプTOP5:地域別 2019年
Source: Euromonitor International Product Claims and Positioning, 2019
スキンケア市場:パッケージのサステナブル訴求が最も顕著な西欧地域、アジア太平洋地域の急速な市場成長はビューティー業界のサステナブルトレンドに懸念をもたらす
リサイクルは引き続きサステナビリティの重要かつ中心的な動きですが、リサイクルに対する準備と姿勢は、地域によって大きく異なります。ビューティーパーソナル業界におけるサステナブルを訴求するパッケージの普及率が最も高いのは西欧地域で、その後に北米、アジア太平洋地域と続きます。ユーロモニターのCOVID-19悲観経済シナリオ1によると、2019年から2024年にかけ、西欧及び北米地域のスキンケア市場はそれぞれ0.2%と0.9%の年間平均成長率(CAGR)にとどまる見込みである一方、アジア太平洋地域のスキンケア市場は同時期に5.5%の年間平均成長を遂げると見られるなど、市場規模と成長率のいずれにおいても、世界の他地域を遥かに凌ぐ成長が期待されています。
アジア太平洋地域の目覚ましい市場成長は、他地域のスキンケア市場の低迷を相殺する一方で、サステナブル・パッケージのトレンドに懸念をもたらす可能性があります。アジア太平洋地域は、サステナブル訴求のパッケージの普及率がとりわけ低く、「Widely recycled(大部分の消費者が再利用している)」、「再利用PET」、「テラサイクル社製」を訴求するパッケージタイプもほとんど見られません。しかし現在、国際的な消費財メーカー達が、アジア太平洋地域における改善を含む事業のサステナビリティの向上に、期限を付けて取り組んでいることから、向こう3年でアジア太平洋地域の状況は変わるかもしれません。このことから、今こそ同地域にとって、衛生や清潔、社会的目的といったCOVID-19関連の重要課題とあわせて、サステナブルなパッケージを考える良い機会であるといえます。ただし、企業にとっては消費者の需要が高まらない限り、サステナビリティに取り組む意欲が高まりにくいことも事実です。
「サステナビリティ」から「目的」にシフトしている消費者の価値感
感染拡大の最中、ビューティー関連企業は一時的に、社会面での持続可能性への貢献を期待されています。また、パンデミックの発生により、企業は利益より目的の追求への長期的な移行を加速させており、社会面でのサステナビリティを経営判断の軸に置きながら、言葉よりも行動することが求められています。そしてビューティー業界は、パンデミックが2021年から2022年にかけて沈静化するとしても、「環境的なサステナビリティ」という別の課題に直面することになります。
パンデミックによって消費者の価値観が恒久的に変化する中、より幅広いビューティー・パーソナルケア企業がサステナビリティ領域の課題解決のために立ち上がり、変化の波に備える重要性を明確に示すことが期待されています。