※本記事は英語でもご覧頂けます:The Future of the Store
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが発生したことで、小売業とっては、今後どのように店舗スペースを活用すべきかを再考する必要性が増大している。昨年(2020年)は、急速なEコマースの台頭と実店舗離れが進んだという印象が強いが、ショッピングは依然として、実店舗抜きには語れない。ユーロモニターによると、2020年の81%からは減少するものの、2025年時点でも、すべての商品の76%が依然として実店舗で購入されることが予想されている。
タイプ別の世界小売市場 2015—2025年
Source: Passport Retailing, 2021 edition
世の中が「ニューノーマル」に移行する中、小売業者やブランドはこれからの世界に備えるべく、以下の4つの主要領域に注目している。
店舗規模と立地を再考しだす小売企業たち
実店舗型小売業は、パンデミック禍において政府より課せられた緊急な規制に対応した後、変革のための下準備に取り掛かっている。特に、大規模店舗の見直しは避けられないだろう。ユーロモニターの試算によると、2020年だけでも世界で1億3,500万平方メートル以上の売り場面積と170万の販売拠点が失われた。店舗経営の課題が続く中、西欧および北米地域では非食料雑貨小売店全体の約5%が完全に閉店した。
2020年、グローバル企業であるInditexが2022年までに全世界で1,200店舗を閉鎖し、大きめの旗艦店に集中する計画を発表するなど、実店舗型の小売業者にとって不利な状況が続くことが予想される。コーヒー大手のStarbucks(スターバックス)は800店舗を閉鎖するが、その多くはドライブスルー店舗と比較すると業績が悪い都市中心部の店舗である。
さらに、都市部がパンデミックの打撃をとりわけ大きく受けたこともあり、目抜き通りの代表的な店を経営する小売企業でさえ、場所やポジショニングを変えることで買い物客を自社の店舗に呼び戻そうとしている。例えば、英国のHarrods(ハロッズ)は、エセックスのショッピングセンターIntu Lakesideにビューティー製品に特化した店舗「H Beauty」をオープンして郊外に進出しており、2021年半ばにはミルトン・ケインズのIntuにも同様のコンセプトで進出するなど、より地域に密着し、従来より若い世代、そして国内の消費者の開拓に取り組んでいる。
再考される実店舗のあり方
時流にそぐわない形態や店舗規模、そして誤った立地の店舗が淘汰されることは、同時に新しい発想が誕生していることを意味している。この1年間、小売業者たちは軒並み戦略を変更し、ポップアップ、store-within-a-store(店舗内の店舗)、さらには移動式やshop-on-wheels(自動車を利用したショップ)といった実験的なコンセプトの試みを重ねてきた。
Swarovski(スワロフスキー)は、ロックダウン期間を使ってブランドイメージと製品ポートフォリオの刷新を試み、2021年にはよりハイエンドなライフスタイルブランドとして再発進した。その一環として、ライブイベントやデジタルイベントを開催するポップアップストア「Instant Wonder」を28店舗オープンしている。
スワロフスキーは、2019年には世界第9位の宝飾品小売業者であったが、同社のパーソナルアクセサリー分野の市場シェアは2016年以降、コスチュームジュエリーブランドやファストファッション大手との激しい競争の中で伸び悩んでいる。同社は、さらなる高級路線で生まれ変わるための幅広い計画の一環として、2021年2月にミラノで「Instant Wonder」ポップアップストアの第1号店を立ち上げ、消費者によりプレミアムかつ多感覚のショッピング体験を提供している。
この手のポップアップストアは、よりクリエイティブかつ自社ブランドを前面に押し出した体験型の空間を提供することを可能にすると同時に、今まで以上に柔軟で短期的なリース契約を結ぶことができることから、今後さらに重要になることが予想される。
Photo Source: Swarovski’s Facebook page – first Instant Wonder store in Milan, Feb 2021
カナダのGrocery Neighbour は、2021年春に正式にサービスを開始する革新的なコンセプトである。オンライン注文もなく、配達料金もかからず、店舗そのものを直接消費者の玄関先まで届ける、というものである。店舗全体がトラックの形態であり、入り口と出口の2つのドアがあるという、まさに移動式の食料雑貨店である。各トラックは対象の地域に住む人々のニーズに合わせて店内の品揃えを調整するなど、地域に密着したサービスの提供を可能にしている。
パンデミック後に発生するトレンドの多くが、Grocery Neighbourにとって有利に働くことが考えられる。食料雑貨のオンラインショッピングの人気が高まる中、多くの高齢消費者がEコマースへの適応に苦戦している一方で、スーパーやコンビニエンスストアといった実店舗に行くことは避けたいと考えている。また、ユーロモニターが2020年11月に実施した「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:COVID-19」サーベイ調査によると、約7割の消費者が、パンデミック収束後も在宅勤務の頻度が増えることを予想している。
消費者の大都市離れが進んでいく中、こうした地元密着型のソリューションは、今後人気を博すだろう。Grocery Neighbourは、トロント以外の地域でも積極的に展開することを視野に入れており、同社CEOのFrank Sinopoli氏によると、今後5年以内に1,000台のトラックの導入を目指している。
Photo Source: Grocery Neighbour
Eコマースの売上をサポートする手段としての実店舗
パンデミックの影響で、Eコマースと実店舗小売の業績が二分化する中、小売企業は実店舗を上手く活用しながらオンライン注文に対応することで、高まるサプライチェーンへのプレッシャーに対応している。
小売業者の中には、店舗をダークストア(客を入れずにECからの注文に対応することに特化した実店舗のこと)に転換し成功しているものもいる。ダークストアは、いわばクリック&コレクトサービスを円滑に行うための倉庫のようなものであり、業務効率と配送スピードの向上を求められる小売企業にとって、人口密度の高い都市部では特に重要である。例えば、スペインのEl Corte Inglesは、BricorのDIYの店舗をわずか10日間でダークストアに改装することで、食品のオンライン注文への対応およびフルフィルメント能力を向上させた。
今後は、既存の実店舗の中にマイクロ・フルフィルメント・センターを設置することが、欧州だけでなく世界的にもますます普及していくだろう。世界最大の食料雑貨小売チェーンであるWalmartは、すでにこの分野における方向性を示しており、2021年には米国国内の数十店舗でフルフィルメント・センターを展開する予定である。
鍵となる教訓
● 2020年に起こった急速なEコマースの普及により、実店舗型小売業は店舗の規模、立地、そしてその役割を再考しなければならなくなった。今後、実店舗は販売拠点、フルフィルメント・センター、カスタマーサービス・センター、そしてブランディング媒体として同時に機能する、多次元的なものにならなければならない。
● COVID-19の影響により、あらゆる企業が収益を上げるために新たなデジタルチャネルや従来とは異なるビジネスとの提携を模索するようになった。こういった流れはこれからも続き、小売業者にとって、様々な異なる販売チャネルの組み合わせを展開していくことは、今後当たり前になるだろう。しかし、実店舗の様相、立地、役割、雰囲気は変わり続けていくものの、向こう5年間の世界の小売業界において、実店舗型小売が最大かつ最も重要なチャネルであることは変わらない。したがって、Eコマースだけに頼るのではなく、オムニチャネル戦略を取ることが、パンデミック後の小売企業の成長と回復を後押しするだろう。
● 郊外や地方都市が、小売企業に大きな商機をもたらす。郊外や地方都市には大都市を後にした人々が流入しているなど利益が見込まれる。小規模都市圏でのビジネスはコストが少ない割には大きな成長が期待できる。
世界の小売業界に関する統計データや定性情報をお探しの方は、こちらまでお問い合わせください。
その他の日本語記事はこちらよりご覧頂けます。
(翻訳:横山雅子)