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ユーロモニターインターナショナルの消費者を対象とした「ボイス・オブ・ザ・コンシューマーサーベイ」調査によると、フェムケアは、女性の健康と美容の幅広い領域の中でますます広がりつつあり、今日の消費者にとっては、心身の健康だけでなく、自己認識や満足感といった多様な概念に関わるものとなっている。
女性のエンパワーメント運動、女性に対する差別をなくす活動、そして、パンデミックでさらに高まったセルフケア意識が相まって、ウェルネスとは本質的に、肌、身体、心を取り巻く多様な要素を含んだものであるという認識が広まりつつある。このような認識のもと、近年企業においても、ナプキンやライナー、タンポンなどの使い捨て衛生用品を指すことが多いフェムケアを、ホリスティック(全体的な)ウェルネスの視点で再定義する動きが加速している。
スキンケア:ホリスティックなフェムケアへの、安全で合理的な入り口
スキンケアは包括的な月経治療の延長として扱われるようになってきており、米国のRaelやカナダのBlume、オーストラリアのSynk Organicなどのフェムケアブランドが既に取り組んでいる。
例えば、外陰部および外陰部皮膚(大陰唇、小陰唇など)は、pHバランスの乱れや皮膚バリア機能障害、そしてホルモンに起因する乾燥、かゆみ、赤み、菲薄化や異臭といった問題が生じることが多い。そのため、このような悩みに応えてくれる製品への需要は高く、外陰部の洗浄、鎮静、保護、保湿などを目的とした、洗浄用品、ワイプ、ミスト、ジェル、クリームなどが、いずれもフェムケアラインに続々と投入されている。
顔の肌もまた、生理中のニキビや脂性肌、かぶれ、かゆみといった生理周期に関連した肌トラブルだけでなく、美容が女性の健康の延長として扱われ、より広範なエコシステムを形成するようになったことから、スキンケアにおいて、ますます重要なカテゴリーとなりつつある。
しかし、生理中のスキンケア製品というコンセプトは比較的新しく、また、生理中の特定の肌トラブルの原因がホルモンにあることが消費者の間であまり理解されていないため、こうした悩みに応える製品には大きな可能性があると考えられる。
実際、ユーロモニターインターナショナルの「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ビューティーサーベイ」によると、15歳~44歳の女性の26%が月経周期が日常生活に大きな影響をもたらしていると回答しているものの、ホルモンの変動に適したスキンケア製品について調べたことがあると答えた回答者はわずか11%しかいない。このように知識が浸透していないため、ブランドや企業はこのエリアへの投資を始めており、L'Oréalは生理周期追跡アプリ「Clue」と提携し、独立系美容ブランドAmareta、Faace、Typologyは生理周期に関連した肌荒れや症状の発生に焦点を当てた開発をしている。
セクシャルウェルネス:女性のライフサイクルにおけるアンメットニーズのもう1つの要
セクシャルウェルネスは、デリケートゾーンをめぐるタブーに既に取り組んでいるフェムケアブランドにとって、考えなければならないもう1つの要素である。
米国のフェムケアブランドLOLAは、この課題にいち早く取り組んでおり、2018年には婦人科医が認めた潤滑コンドーム、潤滑剤、クレンジングワイプなどのコレクションであるSex by LOLAを発売し、2021年には排卵検査キットに加え、妊活に適した潤滑剤、プレジャージェル、膣内のpHバランスと尿路の健康のためのプロバイオティクスなど、製品をさらに拡大している。
特に米国のセクシャルウェルネス業界は、セルフケアとの関連性からも近年加速しており、小売業者のUlta Beauty,、Bluemercury、Sephoraなども美容・パーソナルケア製品と共にセクシャルウェルネス製品を発売している。また、Reckitt Benckiserは米国の女性向けセクシャルウェルネスの独立系ブランドであるQueen Vを買収した。同ブランドはそのZ世代やミレニアル世代に焦点を当てたインクルーシブなブランディング、pHバランスを考え婦人科医が開発に携わった製品(デリケートゾーン用ワイプ、洗浄用品、潤滑剤など)を有している。
失禁ケア:フェムケアに対するタブー意識を払拭する、ウェルネス活動の自然な一部
失禁は一般的に加齢によって生じやすくなるが、手術、妊娠、出産、喫煙、がん治療によって、年齢に関係なく引き起こされる。また、肥満、糖尿病、脳卒中、高血圧、神経障害などの健康問題を抱えている場合も同様である。
2022年に行われた「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ヘルスアンドニュートリションサーベイ」によると、15歳~44歳の女性の54%が中度もしくは重度の失禁を経験している一方で、52%は失禁への対応として生理用ナプキンやライナーを使用すると回答している。これは、製品の使用方法に関する消費者の知識と意識に差があることを示唆しており、フェムケアブランドは、消費者への啓発および支援をすべき重要な立場にあるといえる。
この生理と失禁という隣り合わせのニーズに応えるための企業の取り組みを見ると、米国のRael、Cora、Nannocareなどのフェムケア新興企業が、尿失禁に特化した製品ラインを確立する一方で、Kimberly-ClarkのOne by PoiseやFirst QualityのIncognito by Prevail、花王のロリエ、ユニチャームのソフィといった大手企業は、生理と失禁のどちらにも対応できるタイプの製品を発売している。
企業にとっての次の課題とは?
ホリスティックなフェムケアへのシフトは、これまでも、そしてこれからも、多くのD2C(Direct-to-consumer)ブランドが牽引していくことになるだろう。これらの企業は、月経から肌、セクシャルヘルス、失禁、メンタルや腸の健康にいたるまで、一連のウェルネスニーズに最適なケアを実現できる製品やサービスを提供することで、女性のウェルネス全般におけるビジネスチャンスを特定し、女性の生涯にわたるウェルネスパートナーとしての位置づけを高めつつある。
女性の間でより深く定着したウェルネス志向と、有効性、利便性、適切なケアに対するより高い期待が続くことで、今後数年間は、イノベーション、カテゴリーを超えたパートナーシップ、M&Aなどを通じて、フェムケアと隣接する女性のウェルネスカテゴリーとをさらに結びつける事業戦略が、引き続き支持されることになるだろう。
この変化は、新たな成長機会や、隣接分野に目を向けるビジネス、フェムケアに資本参加することを望む美容・健康関連のプレーヤーにとっては良い兆候である一方で、高いコスト、知識の壁、ブランドの希薄化などの潜在的課題は考慮する必要がある。利用可能なリソース、財務力、競争環境をより深く理解することは、企業がホリスティック・ウェルネスの波を利用し、既存のブランドエクイティを強化するとともに、更なる成長への道筋を開拓するのに役立つだろう。
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(翻訳:横山雅子)