過当競争にある中国の小売業界は、パンデミックを通じて多くの変化を経験した。破壊的なビジネスモデルや新しいトレンドは、すべての小売チャネルに影響をもたらしている。しかし、パンデミックの影響が薄れ始め、世界経済が高インフレ、高金利、高債務、低成長率という課題を抱えるようになるにつれ、中国の小売業界は新たな局面を迎えつつある。そこで成功のカギを握るのは「業務効率化」だ。実際、業務効率を狙いシンプルを極めたビジネスモデルが、中国の小売業界を変革し始めている。こうしたモデルはコストの削減し、効率性の向上を実現させ、消費者に手頃な価格で高品質な商品を提供することにつながっている。本稿では、ユーロモニターインターナショナルの最新プロダクト「Passport: E-Commerceデータベース」から得られる洞察や、消費者の需要や行動の変化に関する分析を活用し、中国におけるシンプル化された小売モデルの2つの例、すなわち、
- オフライン小売における格安食品店 と、
- Eコマース市場における新興デジタルプレーヤー
について掘り下げる。
今、中国小売業界で最も重要なのは「シンプルなビジネスモデル」
格安食品店は、中国における新しいオフライン小売モデルである。非常にシンプル化された同小売モデルは、店舗にて様々な食品を低価格で販売している。格安食品店は、従来のスーパーマーケットやディスカウントストアとは異なり、スナック・菓子類とソフトドリンクに特化する傾向がある。このモデルは、店舗が卸売業者と小売業者の双方の機能を一手に引き受け、物流を合理化し、まとめ買いによる消費者の節約を実現することで成功を収めている。業務効率化に加え、競争力のある価格を提供することは、不況下でやりくりに 苦しむ消費者を取り込むためには極めて重要だ。高い利益率と効率性をもたらすこの格安食品店モデルは、現在中国で急速に発展している。
中国の新興eコマース企業も、シンプル化によって成功を収め ている。その特徴は、マーケティングと販売を一つのチャネルで同時におこなうことで、 サプライチェーンを合理化することにある。これらのeコマース企業は、データを活用してより的確な商品ラインナップをそろえることで、顧客獲得コストを下げると同時に、消費者にとってより頼りになる存在となり、デジタルチャネルにおけるプレゼンスを拡大している。
効率化の優先し人気を集める格安食品店
格安食品店モデルが中国に初めて登場したのは2018年だったが、大きく躍進したのはパンデミック発生後であった。このモデルが主にターゲットにするのは、有名ブランドのスナックへのこだわりが必ずしも強くないが、味や価格を重視する、低級都市在住の消費者だ。そのため、プライベートブランド(ホワイトラベル)は格安食品店にとっての収益性の鍵であり、これら商品の粗利益率は一般的に30%を超える。
この分野の主要企業にとって、過去2年間はシェアおよび規模を拡大し、将来に向けて自社の立ち位置を確立するための重要な時期であった。実際、投資を拡大し、チェーン展開をする格安食品店が数多く出現している。
中国には、すでに2,000店以上の店舗を展開する格安食品店チェーンが多く、なかには4,000店以上を展開する企業もある。例えば、WANCHEN GROUP(万辰集团)が所有する大手チェーン、HAOXIANGLAI(好想来)は5,000店舗以上を展開している。また、SUPER MING(赵一鸣)と合併したBUSY FOR YOU(零食很忙)チェーンは現在、中国国内に7,500店舗を展開している。
今後3年から5年の間に、複数の企業が中国の格安食品店市場において、支配的勢力を持つようになることが予想されている。さらに、これらの小売業者は、より幅広い商品カテゴリーを追加し、ハードディスカウントストアに近いモデルへの進化を画策している。
買い物をシンプル化するEコマースプレーヤー
Eコマースの本質は、物流プロセスを合理化し、商品とターゲットとなる消費者をより効率的に結びつけることにある。供給側である販売業者は、Eコマースプラットフォームの最適化によって、消費者の需要をよりスムーズに満たすことができる。しかし、需要側であるデジタル消費者の目が肥え、要求が厳しくなるにつれ、消費者が何を、いつ、どこで購入したいかを正確に特定することが、成功のためにますます重要になっている。
食料品業界では、Eコマースプラットフォームによって注力する分野が異なる。熾烈な価格競争が繰り広げられる中、各プラットフォームは、それぞれ独自の強みを打ち出しており、その状況はより複雑になっている。このような環境下では、プレーヤーがオペレーションを最適化し、ますます多様化する消費者ニーズによりよく対応するために、簡素化されたビジネスモデルと効率的なターゲティング戦術が役立つ。実際、すでにこのような取り組みをおこなっている新興Eコマース小売企業の一つに、TikTokの運営会社でもあるByteDance(字节跳动)傘下のDouyin(抖音)がある。Douyinは純粋なソーシャルメディアプラットフォームであったが、2020年からオンライン小売業にも参入するようになり、、短尺動画コンテンツとライブストリーミングを活用することで、過去2年間、中国国内の食料品小売分野で急成長を遂げた。
2023年までに、DOUYIN(抖音)は中国の食料品Eコマース市場で、ALIBABA(阿里巴巴集団)のTMALL(天猫)、そしてJD.COM(京東商城)に次ぐ第3位のオンライン小売業者になった。
`出所:ユーロモニターインターナショナル
なお、ユーロモニターのPassport: E-Commerceデータベースは、TMALL、JD.comそしてDouyinのそれぞれにおける中国国内の消費財カテゴリーの売上、詳細な会社・ブランドシェアを毎月トラックしているほか、米国、日本、韓国を含む世界主要15カ国のEコマース市場の動向、各国主要Eコマースプラットフォームにおける製品の売上を追跡している。同データベースについての詳細な情報をご希望の方はこちらから。
今回取り上げた食料品業界以外にも、ビューティ&パーソナルケアブランドがオンライン販売を拡大するためにどの小売業者との提携を優先すべきか、ユーロモニターインターナショナルの「Passport: E-Commerceデータベース」からさらに洞察を得るには、当社の最新レポート「Identifying Key Retail Partners for Brands to Expand E-Commerce Sales」をご参照いただくか、無料オンデマンドウェビナー「Mastering E-Commerce Growth: How to Win Online Amid Uncertainty」をご視聴ください。中国におけるビューティ&パーソナルケアのEコマース市場に関するその他の洞察については、当社の記事「Online for the Holidays: November 2023 Beauty and Personal Care E-Commerce Performance in China and the US」も合わせてお読みください。