※本記事は英語でもご覧頂けます:Sustainability The Nordic Way
北欧地域の人口は3,000万人に満たないが、IKEA、カールスバーグ、LEGOといった、サステナブル・イノベーションで世界をリードする消費財企業の発祥の地である。ビジネスとサステナビリティの目標を効果的に組み合わせ、そして実行することを可能にしている北欧地域の特徴とは何か?
まず第一に、北欧地域には多くの大手企業が集中していることから、協力と競争の両方が生まれ、イノベーションが促進されていることは明らかだ。過去を振り返ると、1990年代にはフィンランドのノキアとスウェーデンのエリクソンが携帯電話の開発初期に競争を繰り広げ、それが後に協力関係へと発展していったなど、同地域ではイノベーションの成果が早く生みだされる土壌があることがわかる。北欧系多国籍企業が打ち出している現在および将来の計画を見ると、サステナビリティを重要視したイノベーションにコミットしている姿勢がうかがえる。これら北欧企業が打ち出している目標や決定は世界的に認知され、他の企業が取り組む課題やベンチマークを形成する指標となっている。共通のバックグラウンドを有していることが、北欧企業がお互いの能力を高めながら共に成長していくことを可能にしている。
こうした協力的なアプローチは、投資にスケールメリットをもたらすだけでなく、リスクを共有するというセーフティネットにもなる。このことからも、競合他社との協業や他の産業やカテゴリーの企業との提携は、より大きな投資を得られるだけでなく、研究開発を共有し、互いの技術力やイノベーション・パイプラインを活用することを可能にするのである。
サステナビリティの共同推進のわかりやすい事例として、スウェーデンの鉄鋼メーカーSSABとボルボの取り組みがある。両社は2021年、スウェーデン北部にある「HYBRIT」のパイロットプラントで製造された水素還元鉄を使った鉄鋼を共同開発すると発表した。SSABは、鉄鋼業界が世界のCO2直接排出量の7%を占め、さらにサプライチェーンでは、電気自動車に関連する排出量の20%を鉄鋼生産が占めていると指摘している。両社の協力は自動車産業における重要な前進であり、世界にとっても大きな利益を意味する。
北欧諸国では、環境に配慮した取り組みや持続可能な社会の実現に向けた取り組みが行われているが、その効果は疑問視されている。国際シンクタンクのグローバル・フットプリント・ネットワークによると、北欧諸国は一人当たりのエコロジカル・フットプリントが最も大きく、欧州地域の平均を大きく上回っている。このように、北欧企業のサステナビリティに対する取り組みと、北欧諸国の消費パターンとの間にはズレが生じており、サステナビリティが国の課題として取り上げられている一方で、人々のライフスタイルはエコロジカル・フットプリントを減らすほどの変化を遂げていない。
一人当たりの国内物質消費量が多い上位25か国(2020年)
Source: Euromonitor International from Eurostat, WU Global Material Flows Database
Note: Domestic Material Consumption measures the total amount of materials directly used by an economy to meet the demands for goods and services from within and outside a country
北欧諸国は、サステナビリティの課題を徹底的に浸透させ、さらに進めるためにも、地球への負担を軽減する行動計画を作らなければならない。しかし、これには障壁もある。多くの環境計画は、課題の「What(何を)」の面では極めて明確であるものの、「How(どうように)」については明確さを欠いている。明確さを欠いた環境計画は、実際の行動を伴わない見せかけの姿勢を示すものであると見られ、結果として持続可能なイノベーションに対する消費者の信頼を損なうことになる。
企業は、製品やサービスによって排出されるCO2が環境にもたらす影響に配慮し、自社のオペレーションのみならずバリューチェーン全体を考えていく必要がある。持続可能なバリューチェーンを構築するためには、企業は環境目標を満たすパートナー企業やサービスプロバイダー、そして流通チャネルと協業していかなければならない。北欧企業の中には、ビジネスおよび消費者のためのサステナビリティに関する意思決定を簡素化し、透明性を高めることで成長を続けているものもある。持続可能かつ抵抗が少ない代替手段を提供するという考えが、企業が持続可能な経営判断を行うことを支援するスウェーデンのSaaSプラットフォームWorldfavorや、レストランと消費者を結びつけ、外食産業や小売業での食品廃棄物の削減を目指す消費者向けアプリを立ち上げたデンマークのToo Good To Goといった北欧企業の根幹にある。
持続可能なイノベーションを実行に移すために克服すべきハードルはあるが、北欧諸国は、助成金、NGOや政府の補助金、そしてベンチャーキャピタルを通じて、環境イノベーションを促進し続けている。
ユーロモニターが実施した「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー」サーベイ調査によると、世界の消費者の63%が気候変動を懸念しており、環境問題は世界中の企業にとっての最重要課題である。消費者の意識の高まり、政府による規制、環境負荷の削減に関する自社目標の設定といった理由に関わらず、企業そして産業全体が、気候変動対策や持続可能性への取り組みの重要性が高まっていることを受け、それに対応している。
企業および消費者のサステナビリティに対する意識の高まり、コミットメントの拡大、そして期待される商機があるにもかかわらず、克服すべきハードルはますます高くなっている。消費者は、上辺だけの欺瞞的な環境配慮である「グリーンウォッシュ」を避け、より持続可能な選択を求め、十分な情報を得た上で判断しようと努めている。一方、企業には、多くの環境関連規制に対応しながら、自社の優先事項と目標を設定することが求められている。環境に配慮した製品への期待が高まる中、消費者と企業が目的意識を持って行動するためには、十分な情報を基づいた決定を容易に下せることが必要であり、このことは、サステナビリティをさらに高め、あらゆるビジネスの主流にするためにも、ますます重要になりつつある。
北欧地域におけるサステナビリティに対する行動や、どのように取り組むのかといったことに対するアプローチ方法など、詳細はレポート「Sustainability the Nordic Way」(有料)をご覧ください。
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(翻訳:横山雅子)