消費者嗜好の変化、Eコマースの台頭、変動する経済状況などを踏まえ、企業がブランド戦略を見直す中で、ロイヤリティプログラムの概念も変化の時を迎えている。ロイヤリティ戦略は時代とともに進化している。今日においては、顧客がカスタマージャーニー全体にわたって簡潔かつ幅広く運用することができ、彼らが求めるニーズに対応しつつよりパーパスドリブン(目的志向、社会的意義を持った)かつ分散型のロイヤリティ・エコシステムの構築が求められている。消費者と情緒的な絆を築くことが付加価値を高め、良好な関係を維持するのに重要だ。
新型コロナウィルスがロイヤリティプログラムを考え直すきっかけに
新型コロナウィルスの蔓延により、消費者の購買行動は大きく変化した。消費者はEコマースを活用するとともに、近所での買い物を好むようになった。また、現実世界に興味を失った人々がブランドに対して無関心になったことが、それらブランドにぜい弱性をもたらし、ロイヤリティプログラムにもマイナスの影響を与えた。消費者は価格に敏感になり、節約のためにブランドを切り替えている。こうした消費者行動の変化をみると、消費者中心の戦略を立て、ロイヤリティプログラムを進化させていくことが、いかに大切かがわかる。
59%の消費者が自分の好みに合わせた、選び抜かれた体験を求めている。また、48%がモノではなく体験にお金を使うことを好んでいる。
出所:ユーロモニターインターナショナル、 ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ(2022年版)
消費者の体験志向が高まる中、体験型の特典を提供することは、顧客エンゲージメントを育み、ロイヤリティプログラムのオリジナリティを高めることにつながる。
また、ロイヤリティプログラムにおけるデジタルツールの活用が、今後も高まり続けるだろう。NFT、ブロックチェーン、メタバースを導入したロイヤリティプログラムは、より一層の特別感をもたらす。ブロックチェーンや暗号通貨といったテクノロジーをベースにしたWeb 3.0が到来するなか、ロイヤリティプログラムは進化しており、透明性、安全性そして柔軟性を高めた新しいビジネスモデルや特典制度が生まれている。
新しいロイヤリティ・エコシステム内における相互運用性や可搬性は、よりスムーズな顧客体験をもたらし、顧客ベースの拡大ひいてはコスト削減につながるのである。
ロイヤリティプログラムのチカラで消費者と情緒的なつながりを築く
ビジネスモデルの変化に伴い、順応性が高く多次元的なロイヤリティプログラムが求められるようになった。価格ベネフィットと情緒的な体験の両方を提供することが、ロイヤリティプログラムの会員との継続的な交流を促進する。情緒的なつながりと金銭的メリットのベストバランスを確立することが、顧客維持、口コミによる推薦を促し、ブランドの信頼と評判を築くことにつながる。
ユーロモニターインターナショナルが実施した「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:デジタルサーベイ」調査結果をみると、企業が消費者に、「顧客になってくれてありがとう」という感謝のメッセージ伝えたり、「個人のニーズにあわせたおすすめ商品」といった、個人に寄り添った対応を提供することが、顧客ロイヤリティを築く上で重要な要素であることがわかる。この傾向は特にZ世代で顕著に見られる。若い消費者は、ブランドとより親密でパーソナルな関係を求めており、彼らのロイヤリティを獲得するには金銭的なメリット以上の何かを提供する必要がある。
特に、Z世代といった消費者層を対象としたロイヤリティプログラムでは、対面での楽しい体験や、ソーシャルメディアを通じたエンゲージメントも影響力がある。ソーシャルメディアの影響は、今日の若者世代のライフスタイルに根付いているため、無視することはできない。
2022年、Z世代の65%以上がInstagramとTikTokを1日に複数回アクセスしている
出所:ユーロモニターインターナショナル、 ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ(2022年版)
ロイヤリティプログラムを提供する側は、このようなニーズを意識して、金銭的なプログラムと情緒的なプログラムの両方をバランスよく提供する必要がある。
ユーロモニターの消費者セグメント「エンゲージド・ロイヤリスト(Engaged Loyalist)」の紹介
ユーロモニターインターナショナルは、同社が実施した「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ」調査結果に基づき、情緒的なロイヤリティに関係する主要指標を特定した。その結果、消費者の25%が「エンゲージド・ロイヤリスト(積極的に関わる支持者)」とプロファイルされた。
企業にとって、こうした消費者の特徴や習慣、認識を理解することは重要である。なぜなら、このような消費者は、ブランドとより深く関わり、個人的なつながりを持ち、長期的な関係につながる可能性があるからである。
より親密な顧客関係をベースにした、エンゲージメント重視のロイヤリティプログラムは、より長期的に続くことが期待できる。消費者がパーパスドリブン(目的志向、社会的意義を持った)を求めるようになるにつれ、彼らがロイヤリティプログラムに期待することも変化しており、体験ベースの特典がより重視されている。また、複数ブランドにまたがったロイヤリティ・エコシステムを導入することで、個々の消費者のライフスタイルに合わせた、より魅力的な体験を提供することができる。
Web 3.0はロイヤリティプログラムに革命をもたらすか?
これからのロイヤリティプログラムは、暗号資産を活用した特典を提供する形に進化していくと考えられており、従来のロイヤリティプログラムの分散化、再活性化が期待される。暗号資産を活用したプログラムは既存のプログラムに組み込みやすく、また、不正行為の摘発やコストの削減、より安全な環境の構築を促進する。
こうした新しい形のロイヤリティプログラムを推し進めているのは消費者たちだ。彼らは自分の好みの決済方法を使い、特典として入手した暗号資産を即座に現金価値に結び付けて使用している。暗号通貨などを活用したロイヤリティプログラムは、リアルタイムで特典を受け取ることができ、中小企業から大手FMCG企業まで、また小売、旅行、ビューティアンドパーソナルケアなど、さまざまな産業において導入することができる。
2022年、34%の消費者が、対面ではなく、没入型のバーチャル空間で他人と交流することに興味があると回答した
出所:ユーロモニターインターナショナル、 ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:デジタルサーベイ(2022年版)
NFTをはじめとするデジタル資産は、今までのロイヤリティプログラムの概念を覆し、より今の時代に合わせた形に進化させる可能性を秘めている。そして、より幅広い顧客層へのアプローチとともに、より強固なエンゲージメントを可能にすることが予想される。また、業界や産業の枠を超えた各種プレイヤーとのパートナーシップの強化を促進しながら、地域内における社会的責任を果たしたり、社会活動参加へのインセンティブを高めることも期待されている。例えば、ロイヤリティプログラムの一環としてNFTから得られる収益を二酸化炭素排出量の削減、生物多様性の保護、文化遺産の保護などの慈善団体を支援するために使用することもできるようになるだろう。NFTは、消費者の好みや興味、新しいライフスタイルに合わせて取引に使用されている。
なぜロイヤリティ(loyalty)なのか
消費者のロイヤリティ(Loyalty: 忠誠心)を維持することは、顧客生涯価値(カスタマーライフタイムバリュー)を増やすための原動力にもなるため、企業やブランドはその影響力を過小評価してはならない。競争が激しい市場環境の中、消費者は自らの力で情報を集め、自分の価値観に合ったブランドを自ら選択している。そのため、企業が顧客との関係を長期にわたって維持することは、未だかつてないほど困難を極めている。現代の消費者を取り巻く環境や消費者の行動・嗜好の変化を的確にとらえ、その欲求やニーズを満たしていくことが、ロイヤリティ獲得につながる。本ブログ記載の情緒的な関係構築やデジタルツールの活用は、その一例である。ユーロモニターインターナショナルは今後もロイヤリティに着目し、その影響について分析を続けていく。
より詳細な分析についてはこちらのレポートState of Play of Customer Loyaltyをご覧ください。