経済ショック、記録的な高インフレ、供給不足が生活費を押し上げ続けている。同時に、Z世代が成年に達したことで、小売業者やブランドは、マーケティング戦略の見直しを迫られている。また、テクノロジーの進化が消費者の購買習慣に影響をもたらし続けている。これらは、2023年の我々の生活を形成する影響力の一部である。
ユーロモニターは毎年1月に、こうした大きな影響力が今後1年間の消費者行動にどのような変化を与えるかについて考察している。 先月、ニューヨークで開催された小売業界イベント「NRF 2023: Retail's Big Show」で、私は小売業者やブランドに最も大きな影響を与えるであろう消費者動向について講演した。本記事でも、2023年に注目すべき3つの大きなトレンドを、詳しく説明していく。
人間味のあるオートメーション(Authentic Automation)
買い物客は、時間とお金を節約できるような、迅速で便利な手段を求めている。企業はこうしたニーズに応えるため、従来マニュアルで行われていた幾つかの作業を自動化するようになった。例えば、自律型ロボットが、ラストマイル配送やレストランでの作業といった用途で使用されている。
難しいのは、人間と機械の間で最適なバランスを見つけることだ。テクノロジー主導の体験に抵抗がないと感じることと、自身の領域に立ち入れられると感じることは相関している。当社が2022年に実施した「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:デジタルサーベイ」調査によると、「商品発見段階においてロボット支援を受けることに抵抗がない」と回答した消費者は、「ロボットが自身の購入作業を代行することに抵抗がない」回答者より2倍多い。
Source: Euromonitor International Voice of the Consumer: Digital Survey
クロックワーク(Clockwork )は、この人間対機械のバランスを追及している。同社が開発した、わずか10分でネイルが完成する世界初のマニキュアロボットの傍らにはスタッフが常駐し、顧客のネイルがちょうど良くなるようにサポートする。同社は米国のターゲット(Target)と契約を結び、6つの店舗にマニキュアロボットを導入している。マニキュアロボットは、ネイルサロンでの体験に取って代わるものではないが、時間がない買物客のために、簡単なタッチアップを自動化している。
ビジネスリーダーたちは、コスト削減と効率化の最大化させるために、これらのテクノロジーに投資しているが、現在、計画されている投資額は、デジタルトランスフォーメーションが過熱した2020年のピークからは、わずかに減少している。
約40%の企業関係者が、2023年中にロボティクスへの投資を計画していると回答(2022年11月に実施された調査より)
Source: Euromonitor International Voice of the Industry: Digital Survey 2022
カスタマージャーニーにおけるすべてのタッチポイントを評価し、自動化にすべき箇所と、対人交流を維持すべき箇所を見極める必要がある。テクノロジーに依存しすぎると、ブランドエンゲージメントが損なわれる可能性ある。
テクノロジーの導入には確固とした目的があり、対人交流によるサービスと遜色がない体験をもたらさなくてはならない。「テクノロジーを導入するだけでは十分とはいえない」とは、クローガー(Kroger)社のロドニー・マクマレンCEOのNRF 2023: Retail's Big Showでのコメントである。
切り詰める消費者(Budgeteers)
インフレと物価高により、人々の購買力は低下している。現在の経済状況下において、消費者は生活必需品に 対し、より多くを払うか、または低価格なものに 買い替えるか、あるいは全く買わないかの選択を 迫られている。
2023年の世界経済は大幅に悪化し実質GDP伸び率が2.6%に減速する一方、インフレ率は6.4%に達すると予想
Source: Euromonitor International
消費者は倹約志向になると、愛着があるブランドよりも手頃な価格を優先するようになり、支払う額で最大限のメリットを得たいと考えている。企業は人々の長期的なロイヤリティを得るためにも、彼らが現在の先行き不透明な経済を乗り切ることを支援するソリューションを開発、そして提供することが求められている。
英国のベビーウェアのサブ スクリプションサ ービスであるバンドリー(Bundlee ) は、Stella McCartneyと提携 し、予算を気にする 親たちにとって、同 ブランドのような高 級品をより身近なも のにした。バンドリーの子供服レンタルサブスクリプションサービスは、厳選されたベーシックブランドは月24ボンドから、プレミアムブランドは15着で月39ポンドから提供している。また、イケア(IKEA)はファミリー向け特典プログラムの内容を拡充し、 実店舗内での購入については5%割引とするほか、特定の 配送オプションについては限定割引を提供している。
企業は自社のバリュー・プロポジションを見直す必要がある。小売企業にとってそれは、プライベートブランドの立ち上げやその品揃えの充実を意味するかもしれない。メーカーも、自社ブランドが製品ポートフォリオの価格設定、品揃え、製品サイズにおいて消費者に提供する価値を再考する必要があるだろう。また、ロイヤリティプログラムの立ち上げや、優良顧客者向け特典の拡充、バンドル販売なども、厳しい経済状況下で顧客ロイヤリティを高めるために役立つだろう。
型にはまらない若者たち(Young and Disrupted)
Z世代への注目が集まっている。この世代の消費者は自らの信念を大切にし、行動を起こすことをいとわず、企業にも同じ姿勢を求めている。
2022年、Z世代の30%が、ブランドの社会的・政治的信念に基づいて購入を決定したと回答(2020年は25%)
Source: Euromonitor International Voice of the Consumer: Lifestyles Survey 2022
Z世代層の経済的自由は高まり続けている。ブランドや企業は、トレンドセッターである同世代の消費者や新しいタイプのエキスパートについて早急に理解する必要がある。なぜなら、彼らの常識にとらわれない考え方は、従来のビジネスのあり方を変えようとしているからである。
中国の化粧品ブランド、フローラシス(Florasis) は、ブラ ンドを擬人化し、中国の伝統文化 を体現させたバーチャルインフル エンサーを作り出すことで、若い消 費者層にアピールしている。バーチャルインフルエンサーは、世界中で一般的になりつつあるが、そのほとんどは個人による活動であり、ブランドによるものではない。Z世代の影響は、すでに食料雑貨小売店にまで及んでおり、SNS上のプレゼンスに変革をもたらしている。例えばウォルマート(Walmart)は「ウォルマート・コネクト」と呼ばれる同社の広告ネットワークにTikTokを追加した一方で、オンライン食料雑貨店のミスフィッツ・マーケット(Misfits Market)も、より短尺の動画コンテンツにシフトしている。
どうすればZ世代を取り込めるか?まずはソーシャルメディアだ。この世代のショッパーたちは、ひらめきや学び、商品レビューを求めて画面をスクロールしている。短尺動画プラットフォームのTikTokが彼らのお気に入りであり、世界のZ世代の60%が、同プラットフォームを利用しているなど、その割合は他のどの世代よりも高い。
この消費者層を惹きつけるのは、リアルかつ自分たちが共感できるコンテンツである。典型的な広告よりも、実際購入した人々からの評価が、その商品の良さを語ってくれるだろう。ロイヤリティのある顧客が、企業やブランドにとっての最大の支援者なのである。
本物のつながりがもたらす力
「人間味のあるオートメーション」、「切り詰める消費者」、「型にはまらない若者たち」。これら2023年世界の消費者トレンド3つに共通するのは、「信ぴょう性」である。Z世代の消費者にとっては、それはあらゆるブランドメッセージの中で最も重要な意味を持つ。信ぴょう性は、生活費危機の中で苦労している消費者の味方となる小売業者やブランドにとっても大切だ。また、企業が人間とボットの役割分担のバランスを取る際にも信ぴょう性が求められる。すべての消費者が、ブランドと本物のつながりをを感じたいと思っているのだ。
2023年の戦略実行を開始するにあたり、上記のインサイトが貴社のキャンペーン施策、意思決定、成長計画の一助になれば幸いである。なお、消費者トレンドを含む日本語コンテンツはこちらのページに集約してあるので、これらのトレンドを通年でモニターしたい方はブックマークをおすすめする。