2023年6月21日から6月23日の期間で、大規模な食品・飲料市場の展示会であるJFEX2023と、“日本の食品”輸出EXPOが東京ビッグサイトにて開催された。新型コロナウイルス感染症が5類感染症へ移行し、各ブースでは試食や試飲が活発に行われた。新型コロナ以前の賑わいを取り戻した会場からは、3つのキートレンドが見て取れた。
プラントベース:日本ならではの素材で世界へ
JFEX2023では、ヴィーガンのタイ風サワーソーセージやプラントベースのジェラート、“日本の食品”輸出EXPOでは椎茸寿司やプラントベースのマグロ寿司など、多くの植物性素材で作られた動物性商品の代替品が紹介されていた。
出所:ユーロモニターインターナショナル、ボイス・オブ・ザ・コンシューマー: ヘルス&ニュートリションサーベイ(2023年1―2月実施、global n=21,221; India n=1,011; USA n=1,012; China n=1,003; South Korea n=1,006; Japan n=1,002 )
日本の代替飲食品市場は、近年早いペースで広がりつつあるものの、欧米市場には、市場規模だけでなく商品開発でも大きく後れをとっている。代替肉を月に1回以上食べる消費者の割合を見ると、日本は調査国21か国中で最下位であり、世界平均を大きく下回っている。国内市場の拡大には、素材の多様化や既存商品の風味の改善が必要不可欠である。また、今後国内市場が人口減少などにより停滞していく中で、輸出を視野に入れた商品開発では、プラントベース商品においても持続可能性以外のアピールポイントが必要となる。また、最近では、世界市場で商機を狙えるような日本発のプラントベース商品が出てきている。
出所:ユーロモニターインターナショナル
イベントでは、日本ならではの素材で作られた代替卵や代替肉が紹介されていた。例えば、浅草に本社を構えるUMAMI UNITED JAPAN株式会社は、こんにゃく粉やにがりを使用したパウダータイプの代替卵、UMAMI EGGを紹介していた。たんぱく質を含む水分と混ぜ合わせることで、卵料理や焼き菓子など多くのメニューに広く応用できる。また、こんにゃく粉のもつ高い吸水性を活かし、少ない使用料で卵の味や食感を実現しており、鶏卵価格が上がる中で価格面での優位性もある。代替肉においては、株式会社ビーツー(新潟県長岡市)がグルテンミートとして、大豆ミートよりも癖のない車麩由来の植物性ソーセージやナゲットを紹介していた。
ブレミアム:特別な体験を提供
2023年に注目すべき世界の消費者トレンドTOP10で「切り詰める消費者」を挙げているように、生活費危機は消費者の購買行動に大きな影響を及ぼしている。
生活防衛意識の高まりから消費者の購買力は低下し、より支出にシビアになっている一方で、イベントでは贅沢需要に対応できるプレミアム商品が多く紹介されていた。プレミアム製品はあらゆる生活必需品を切り詰める消費者にとって、特別なアイテムとして消費者に非日常的な体験を与えると同時に、企業にとっても生産、運用コストの高騰からの利益確保、といった観点から重要なポジショニングの製品であることに違いない。
“日本の消費者の49%が体験にお金を使うことを重要視している”
出所:ユーロモニターインターナショナル、ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ(2023年1―2月実施 n=1011)
出所:ユーロモニターインターナショナル
例えば、日本酒ブランドのSAKE HUNDREDでは、1本1万5,000円からとハイエンドな日本酒を提供しているが、中でも「現外(GENGAI)」は2023年6月時点で1本24万円超で販売されている。同製品は1995年の阪神・淡路大震災によって倒壊した酒蔵から奇跡的に残された「酒母」と呼ばれる醸造の途中段階の液体から熟成され、20年を超える熟成された味わいだけではなく、そのストーリーを消費者に届けることによって、希少な体験を付加価値として提供している。また、株式会社OSMIC(東京都中央区) は糖度11.0のミニトマトを紹介していた。価格は1箱120gで1,150円と、数百円で購入できる通常のミニトマトと比較し高価格級だが、一般的なミニトマトの糖度6.0~7.0 を大きく上回っており、その糖度は一粒ずつ光によって計測されていることから、その甘さは科学的に約束されている。
ウェルネス:高まり続ける健康への関心
身体や心のウェルネスにアプローチする商品を扱う企業の出展も目立った。リラックスをサポートする商品では、株式会社ファインが2022年に上市したタブレット型CBDサプリのCBDeepが見られた。同社の睡眠をサポートするサプリメント、ファイングリシンシリーズからは、グリシンとGABAにプラスしてCBDを新たに配合したファイングリシンプレミアム+CBDが2023年3月より販売されている。
出所:ユーロモニターインターナショナル
国内ではインフルエンサーによるSNSでの紹介が目立つ、サジー*を扱う企業も出展していた。サジーは血中中性脂肪を下げる働きをはじめ、様々な機能性を持つオメガ7が豊富であり、カリウムやフラボノイドなどの抗酸化作用、各種ビタミンが豊富だが、強い酸味をもつ果実である。日本企業からは、株式会社イエロードクタージャパンが、モンゴル産原料を使ったプロテインバー、グアマラル シーベリープロテインバーを紹介していた。
サジーを使用した商品の中ではジュースやサプリメントが多くみられるが、同商品は大豆やアーモンド、ココナッツなどを配合し、自然な甘みを感じられるように作られている。
出所:ユーロモニターインターナショナル
また、中国からはSpring Flows社がジュースの他、サプリメントの原料となるオイルやエクストラクトを紹介していた。同社からはその他にマルベリージュースやエクストラクトも展開されている。マルベリーはブルーベリーや葡萄と比較し低糖質でありながら、ビタミンC・カルシウム・鉄分・マグネシウムを豊富に含んでいる。
*サジーはシーベリー・シーバックソーンとも呼ばれる
まとめ
新型コロナウイルス感染症の拡大により、国内の商品開発スピードは近年著しくスローダウンしていた。開発費や広告費の削減、店舗での販買促進の制限などさまざまな理由があるが、展示会など各種イベントで実際に商品を手に取り、試食や試飲を通じてインスピレーションを得る機会が失われていたことも要因の一つと言えるだろう。日本の将来人口推計を考えると、今後の国内飲食料品市場の縮小は、特に数量ベースの消費においては避けられない。今回、JFEX2023と“日本の食品”輸出EXPOという二つの展示会に参加し、上記で触れた以外にも非常に多くの商品を見学・体験した。成熟した日本市場において、消費者に定番として受け入れてもらえる商品の開発は困難を極めるが、ユニークな商品は、日本国内だけでなく世界市場においても商機を狙いやすいのではないだろうか。