第58回スーパーマーケット・トレードショー2024(SMTS2024)が2024年2月、東京で開催された。一般社団法人全国スーパーマーケット協会(NSAJ)が主催するこの展示会は、食料品分野に関わるさまざまな業界関係者のつながりを育んできた実績がある。今回、ユーロモニターインターナショナルは、同展示会において顧客ロイヤルティをテーマに置き、セミナー登壇を行った。本稿では、今年の展示会場から伺えた、日本の食料品小売業における顧客ロイヤルティ構築の展望についての5つのトレンドを考察していく。
急速にデジタル化が進む日本の小売業
デジタル化は全世界、あらゆる業界、領域において急速に進んでいる。そうした中、消費者は自ら情報を集め、自分の価値観に合ったモノやサービスを選択している。企業は、このような消費者を取り込み、結びつきを維持するための戦略を講じる必要がある。
日本は世界第4位の経済大国であるが、デジタル化の推進については他国に遅れをとっている。ユーロモニターが各国のデジタル化の進み具合を測定するために算出している Digital Consumer Indexの2022年版によると、2021年、日本は調査対象国50ヵ国中10位であったが、2026年には14位までランキングが落ちると予想されている。今後、日本の順位がどのように推移するかは、政府、メーカー、小売業者がデジタル施策をいかに進めるかによるだろう。今回、スーパーマーケット・トレードショー2024(SMTS2024)では、デジタル技術を活用した取り組みが多く紹介されていた。
トレンド1:
リテールメディアの導入が消費者と店舗のコミュニケーションを変える
会場では、株式会社オカムラやVusionGroup社など、様々なテクノロジー企業によってデジタルサイネージを活用したプロモーションやリテールメディアが紹介されていた。次々と映像が切り替わる高解像度のスクリーンは、店内での体験をよりエキサイティングなものにする要素を持ち、小売店にとっては消費者に対し、情報を効果的に発信することができるツールとなる。例えば、日替わりの特売品やポイント還元、キャンペーンなどを大々的に宣伝することができる。
出所:ユーロモニターインターナショナル
トレンド2:
パーソナライズされた買い物体験を実現するリアルタイムマーケティング
東芝テック株式会社が展示していたのは、タブレットとスキャナーを搭載したショッピングカートを利用した、リアルタイムマーケティングのシステムだ。ショッピングカートにセットされたタブレット及びスキャナーは、商品をスキャンして自動で会計を進めるだけでなく、カートに入れられた商品に関連するクーポンなどのプロモーションを即座に表示し、その一瞬で消費者に「お得感」を提供する。例えば、人参とじゃがいもをカートに入れると、本日の割引クーポン対象のカレールーがおすすめ商品として画面上に表示される、といった具合である。
出所:ユーロモニターインターナショナル
トレンド3:
店舗価値を高める持続可能性へのコミットメント
会場では、省エネルギーや、プラスチック削減を含む改良された製品パッケージングなど、持続可能性に関する様々なイノベーションも多くみられた。 このようなイノベーションは、小売業者にとって、自社が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためだけでなく、消費者に自社の取り組みを、わかりやすく目に見える形で伝えるためにも重要である。例えば、「店内で回収したキャベツの外葉などの野菜くずを、小動物の餌として再利用する」といったシンプルなメッセージでも、店舗の持続可能な行動をアピールし、情緒的なロイヤルティを構築するのに有効である。
出所:ユーロモニターインターナショナル
トレンド4:
遠隔コミュニケーションによるインクルーシブなサービスの実現
「おもてなし」という言葉にあるように、優れた顧客サービスを提供することは、日本の小売業にとって、最も重要な要素と考えられてきた。しかし、近年問題視されている人口減少による労働力不足やインバウンド観光客の増加により、顧客ひとりひとりに寄り添った理想的なサービスを提供することが難しくなっている。タイムリープ株式会社の遠隔接客サービスRURAは、そのような問題に対応するための遠隔多言語翻訳コミュニケーションサービス(手話を含む)だ。通話先には通訳者が常時スタンバイしており、小売店からの問い合わせに即座に対応できる。
トレンド5:
外部パートナーと連携してデジタル化を加速
会場では、小売企業にデジタル化の支援を提供するさまざまなパートナー企業の出展が見られた。国内のデジタル化が急速に加速する中、小売企業だけの力でこの課題に取り組み、デジタル化を推進していくことは困難である。テクノロジー企業を中心とするさまざまな外部パートナーとの提携により、デジタル化が効率的に進み、消費者にユニークな体験を提供することができるようになる。例えば、BIPROGY株式会社のスマートキャンペーンサービスは、同社のテクノロジーを小売企業がカスタム開発したアプリやロイヤルティ・プログラムとシームレスに統合することを可能にする。小売企業は、自社システムをBIPROGY社のサービスと統合することで、マーケティング・キャンペーンに対する消費者の購買行動の変化などを見える化し、今後のアプローチをより適切に調整することができるようになる。
ユーロモニターインターナショナルの市場調査によると、2023年、日本の小売総額の85%がオフラインチャネルでの購入によるものであった。Eコマースの成長はみられるものの、日本の消費者にとって、店舗における買い物体験は、依然として重要な意味を持っている。新たなデジタル施策を通じて店舗における買い物体験を強化することは、より情緒的な観点から顧客との接点や、ロイヤルティを構築するのに役立つと同時に、メーカーや小売企業が、ターゲット消費者層とのつながりを深め、販売効果を高めるのに役立つ。日本が人口減少に直面する中、小売企業が競合他社に差をつけ、市場での存在感を維持するためには、このような顧客維持に向けての積極的なアプローチが不可欠である。
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